構造設計に関わる仕事をされている方であれば、構造設計一級建築士をとりたいと思っている方が多いと思います。
ですが、書店では過去問や合格対策がまとまった本なども売っておらず、どのように試験対策していいかわからないという方もおられるのではないでしょうか。
そのため、情報収集も兼ねて資格学校に申し込もうか迷われている方もおられるかもしれませんが、まずは本稿を読み、資格学校にまで行く必要があるのか、考えてみてください。
筆者は、本稿の方法により、独学で2023年度(令和5年度)の構造一級建築士試験に一発合格できました。
筆者としては、早めにしっかりとした試験対策をスタートできれば、構造設計一級建築士に関しては高額な資格学校は不要。
対策のスケジュール感や試験時に持ち込めるものなども解説していますので、これからイチから勉強するという方はぜひ参考にしてみてください。
本稿の対象読者
・構造設計一級建築士の資格取得を目指されている方
・構造設計一級建築士の勉強方法がわからないという方
・独学での資格取得を目指されている方
構造設計一級建築士の難易度
4人に1人程度の合格率
試験の合否は、(公財)建築技術教育普及センターのHPで、合格率なども含めて公表されます。
筆者が受験、合格した2023年度の合格率は27.2%で、4人に1人程度が合格できています。
ちなみに2019年度〜2022年度は30%前後の合格率になっているので、3人に1人程度が合格しており、一級建築士と比べると合格率としては意外と高めです。
試験では午前の法適合確認、午後の構造設計のそれぞれで合否がつき、両方合格となれば晴れて構造設計一級建築士です。
過去2年に法適合確認、もしくは構造設計のいずれかのみ合格となった方は、不合格となっているいずれかの区分だけを受験すればよいこととなっています。
上記の合格率27.2%は、そのような方を含めての合格率ですが、午前、午後ともに受験した方でも合格率は26.2%なので、大きくは変わりません。
2023年度は2022年度に比べて難易度UP
前述したように、2023年度は2019年度〜2022年度に比べて合格率が下がり、合格への難易度がUPした印象です。
筆者は一発合格できましたが、手応えとしては法適合確認、構造設計の両方とも不合格でもおかしくないな、という感じでした。
試験の出題数、解答方法などは2022年度と同様でしたが、合格率が下がったということは、正答率が低かったと考えられます。
構造設計一級建築士は、上位何%を合格とするのではなく、正答率何%以上程度を合格とするという採点方法の可能性が高いですね。
資格学校の総評では、初出題の問題がおよそ半数を占めたため、過去問は確実に正解したうえで、初出題問題にも一定数は答えれるよう、準備する必要があります。
試験対策スケジュール
ここからは試験のスケジュールや、それを見据えた勉強開始時期などのスケジュールを紹介していきます。
申込は6月。経歴書は記載例をよく読んで
申込みは6月です。
現在はすべてインターネットでの申込みとなっており、2023年度時点では申込み内容の一時保存などができないため、ある程度の時間を確保して、まとめて入力する必要があります。
申込みには氏名などの個人情報はもちろん、実務経歴を入力する必要があります。
構造設計一級建築士は、一級建築士を取得してから、5年以上の構造設計に関わる実務経験が必要になるからです。
実務経歴の入力は、それぞれの業務に対し、開始月と終了月を入力する必要があり、実際に携わった期間が自動計算され、合計が5年以上になれば入力完了できます。
ただし、2つの業務で期間が重複しているものについては、入力ができません。
重なっている期間がダブルカウントとなってしまうからです。
この実務経歴の入力ですが、かなり面倒です。
そのため、経歴書の記載例をよく見てから入力するのを絶対にオススメします。
特に審査業務(確認申請の審査や構造計算適合性判定など)に携わられている方は、複数の案件に対してまとまった期間を入力する記載例なども掲載されています。
まとまった時間を確保し、一気に申込みを終えてしまいましょう。
筆者は最初に記載例を見ずに入力をはじめたため、一時保存ができない入力システムも相まって、申込みに合計で3時間程度を要してしまいました。
筆者の経験から、記載例をしっかりと見て、あなた自身に近い事例から、入力を簡略化できるものがないかを探してみてください。
貴重な勉強の時間を申込みの時間に浪費し、労力まで無駄に費やしてしまうのはもったいないです。
試験は11月。半年前には勉強開始
試験は11月の開催です。
これまでに過去10年以上の過去問があるため、半年前には勉強を開始し、過去問をひと通り実施しましょう。
過去問を実施する際には、黄色本(建築物の構造関係技術基準解説書)を準備しましょう。
構造設計一級建築士の試験には、黄色本、講義テキストおよび関数電卓の持ち込みが可能です。
また、黄色本および講義テキストはインデックスの貼付、マーカーの記載および多少の書き込みが可能なため、黄色本は早めに作り込んでおく必要があります。
建築士試験の法令集のような扱いです。
詳細は後述しますが、普段の業務で黄色本を読み込んでいない方は、黄色本作りにかなりの時間を要するため、勉強開始は半年前でも遅いくらいかもしれません。
試験1ヶ月半前に講義を受講
11月の試験のまえには、トータル2日間の講義を受ける必要があります。
講義を受講していなければ、11月の試験を受けることができません。
講義は対面でもオンラインでも受講可能ですが、オンラインでの長時間の講義は集中力の持続が難しいため、筆者としては対面での受講をオススメします。
オンラインでいつでも受講できると思うと、期限ギリギリに焦って講義に追われるということも考えられますからね。
対面で日程が固定され、そこで絶対に受けないといけない状況のほうが、講義に集中もできてよいでしょう。
ちなみに試験に持込みできる講義テキストは、講義受講のときにようやく手に入ります。
それまでテキストなしで過去問対策をするのはかなり非効率ですので、多少古いものでも構わないので、知り合いなどから譲っていただくようにしましょう。
どうしても手に入らないという方は、メルカリなどのフリマアプリで売買されているので、ここには多少の出費に目を瞑って手に入れましょう。
合格発表は1月
合格発表は翌年の1月です。
合格発表日に(公財)建築技術教育普及センターのHPで合格者の受験番号は公表されます。
また、翌々日くらいに、合格者には修了書と登録のための手続きに関する書類が郵送で届きます。
試験の詳細
午前、午後の合計6時間
試験は午前3時間、午後3時間の合計6時間で行われます。
午前中は法適合確認に関する問題、午後は構造設計に関する問題という区分です。
午前、午後の両方に対して合否がつき、いずれかのみを合格となった方は、その後2回、合格となった区分は試験が免除されます。
午前、午後とも3時間の長丁場ですが、記述問題もあり、体感的にはあっという間に感じます。
多くの人が、複数の問題で悩むため、解答を確認する時間もそこまで多くは確保できないのではないかと感じました。
午前、午後とも4択と記述問題
令和5年度の試験では、令和4年度の試験と同様に、午前、午後ともに4択が10題と、記述問題が3題という構成でした。
また4択では、回答番号のみでなく、その番号を選んだ理由の記述も求められます。
例えば、4つの中で不適当なものを選ぶ問題であれば、不適当とした理由も記述する必要があります。
そのため、わからない問題に当てずっぽうで運良く正解するということができない試験になっています。
時間短縮のため、簡潔な文章を書く能力も重要です。
4択では構造設計に関する倫理などに関する問題や、耐震診断や耐震補強、耐火構造に関する問題も出題されますが、新築の構造設計に関わる問題が中心です。
設計に関する考え方だけでなく、構造材料の特性などに関する問題もあり、RC造、S造、SRC造、木造、基礎構造など、構造設計に関する幅広い知識が問われます。
すべてを頭に入れるのは非常にハードルが高いため、テキストや黄色本の読み込み、作り込みが重要となってきます。
記述問題では、与えられた条件で設計を行なった場合の荷重や変形を考える問題や、不適切な設計を適切にした場合にどうなるか、といった問題などが出題されます。
RC造やS造、また基礎の設計など、幅広い問題が出題されますが、過去問でトレーニングすることで、ある程度の対策は可能です。
黄色本およびテキストの持込み可
先にも述べたように、構造設計一級建築士の試験には、黄色本、講義テキストおよび関数電卓の持ち込みが可能です。
また、黄色本および講義テキストはインデックスの貼付、マーカーの記載および多少の書き込みが可能です。
書き込みがどの程度まで許されるのかは公表されていませんが、筆者が受験した際には、あまり書き込みの程度までを試験官の方にチェックされることはありませんでした。
ただし、書き込みが多すぎると、最悪テキスト没収ということも考えられますので、書き込みをされる場合は、ほどほどにしておきましょう。
試験対策
黄色本作り
構造設計一級建築士の資格をとるにはまず、建築物の構造関係技術基準解説書(黄色本)を購入し、作り込む必要があります。
黄色本は、一級建築士の法規の受験における法令集のように、受験時の持込みが認められており、黄色本をどれだけ作り込めてるか、目的の内容がどこに記載されているかをどれだけ把握できているかが、合否を大きく左右します。
業務で黄色本を使っていない方は、かなり時間と労力が必要です。
黄色本については、インデックスの貼付、マーカーの記載、多少の書き込みが許されています。
そのため、ひととおり内容を確認し、ご自身の使いやすいようにインデックスを貼ったりすることが重要になってきます。
黄色本の作り込みについては、以下の記事で紹介していますので、参考にして作り込みを進めてください。
黄色本はまだ持ってない、今から作り込むという方は、しっかりと構成を理解して使いやすい状態にするには半年程度は時間を見ておいたほうがいいと思います。
これから購入するという方は、今すぐにでも購入しましょう。
過去問およびテキストを入手
黄色本の次には、過去問とテキストを入手する必要があります。
構造一級建築士の過去問は、出版社などから販売されておらず、建築技術教育普及センターが前年度の過去問のみ入手できますが、解答は公表されていません。
そのため、日本建築構造技術者協会(JSCA、ジャスカ)のHPから購入するのが一般的です。
多少の出費が必要ですが、絶対に手に入れましょう。
ただし、完売している場合もあるため、その場合は職場に持っている人がいないか相談するか、いない場合はフリマサイトなどで購入するしか方法がありません。
フリマサイトでも過去問はそこそこの金額で売買されていますが、過去問がないことには試験対策は始まりませんので、思い切って購入しましょう。
過去問がないことには、試験勉強が始められません。
また、講義テキストの入手も必須です。
講義テキストは、黄色本と同様に試験への持ち込みが認められています。
そのため、黄色本と同様に、インデックスの貼付や書き込みの状態が、合否を左右します。
講義テキストは本来、試験を申し込んだ方が秋に講義を受けた際に配布されるものです。
ですが、秋(試験の約1,5ヶ月前)に手に入れていては、作り込むには遅すぎます。
そのため、過去問と同じく、職場で持っている人がいないか相談し、いなければフリマサイトなどで購入しましょう。
講義テキストは数年に一度更新されており、2024年3月現在では、2021年改訂販が最新となっています。
ですが、テキストが入手できれば、多少古い版でも問題ありません。
古い版でも作り込んでおけば、秋の講義で配布される最新版のテキストにマーカーや書き込みをコピペしていけば、多少の二度手間になりますが問題ありません(実際筆者も、古い版で勉強を進め、講義後に最新版で作り直しました)。
黄色本、過去問、講義テキストは試験対策には必須のアイテムですので、是が非でも手に入れましょう。
過去問しながらテキスト作り
黄色本、過去問、講義テキストを手に入れたら、いよいよ試験勉強が開始できる状態になります。
まずは、過去問をひととおり解きながら、講義テキストを作り込んでいきましょう。
ひととおりの過去問を解いていくと、似たような出題も多く、そのような内容は講義テキストにマーカーをしたり、テキスト内に該当の記述がない場合は書き込みをしましょう。
過去問すべてを解けば、出題の傾向などもある程度つかめ、講義テキストも自然に作り込めていきます。
試験はもともと午前、午後の合計6時間で実施されるため、問題を解くのに6〜7時間、解答の確認や講義テキストへの書き込みなどを考慮すれば、各年の過去問を見るのに8〜10時間程度の時間は必要になります。
試験が始まって15年ほどが経過していますので、過去問をひととおり解き、講義テキストを作り込んでいくのに、150時間程度は見込んでおいたほうがいいでしょう。
1日1時間の勉強なら5ヶ月、2時間勉強時間が確保できても2.5ヶ月ほどはかかりますので、余裕をもって半年くらい前からは過去問をスタートさせたいですね。
試験までは過去問中心で
試験の合格だけを考えれば、試験までは過去問を中心に対策していくのが最も効率的かと思います。
「私は問題を解けるだけじゃなく、しっかりと理解したいんだ」という方は、各構造種別の参考書なども読み込む必要がありますが、そこまでするとなかなか時間が足りないと思います。
試験の合格だけを考えれば、過去問に時間をかけましょう。
基本的には過去問を何周か行い、それでも時間に余裕があって理解を深めたいという方は、別の参考書を読み込むという具合でよいかと思います。
先にも述べたように、過去問をひととおり解いて講義テキストを作り込むだけでも、ざっくり150時間程度は必要なため、あれもこれもと手を広げて勉強するのはおすすめできません。
合格ポイント
ここまで試験の概要や試験対策について紹介してきましたが、最後に合格のためのポイントを2つ、お伝えします。
日常業務で力をつけるのが理想
試験に際して筆者が感じたのは、日常業務で構造設計に対してある程度の理解があれば、効率的に試験対策に取り組めるということ。
特に記述問題は、設計に関するノウハウがあれば、ケアレスミスや問題の読み違えさえしなければあまり悩まずに解答できる問題もあります。
一方、日常業務で構造設計に対する知識をあまり習得できていない方は、この部分で他の受験者に差をつけられてしまう可能性が高くなります。
理想的なのは、構造設計の本質や、本当に必要とされる能力は日常業務で身につけた状態で、試験のための知識を効率的に学習していくことかと思います。
試験のための知識とはいえ、学習するなかで取得でき、その後の業務でも当然役立てていくことができます。
筆者の経験上、試験に合格するのが当然重要ですが、不合格であっても受験までに学習した知識はその後の業務に役立つことが往々にしてあります。
試験に効率的に合格したいのであれば、日常業務でも上司や組織からのやらされ仕事ではなく、自身で考えて設計の能力を身につけていくのが近道になります。
文章が苦手な人は、チェックしてもらう
試験での記述問題では、当然文章力が求められます。
また、構造設計一級建築士の試験では、4択でもなぜその回答を選んだのかを文章で簡潔に述べる必要があります。
そのため、文章が苦手な方や、苦手とは思ってないけど書き慣れていない方は、過去問での文章の解答を誰かにチェックしてもらいましょう。
筆者は、業務で比較的文章を書くことが多いため、一級建築士の試験などでも、文章を書くことにはあまり苦労しませんでした。
ですが、文章をうまく書けない方は意外に多く、またそういう方に限って自分の文章を読み返しません。
設計に関する知識があり、頭ではわかっているのに、記述問題でその意図を文章でうまく書けずに減点となれば、とてももったいないですよね。
筆者は業務上、他の方の文章を確認することも多いのですが、口で説明している内容が文章に書けていない方は案外多いです。
ご自身では気づいていない方もおられるかもしれませんので、文章は他の人に一度は見てもらうのをおすすめします。
おわりに
構造設計一級建築士の合格のためにはそれなりの時間と労力が必要なため、生活リズムもある程度整理しないといけません。
人にもよりますが、睡眠時間を削って勉強するのは多くの人間にとって非効率(時間をかけたのに頭に入らない)なため、理想の生活リズムを自分で確立し、そのために仕事の時間も効率的に短縮できるような工夫も重要になってきます。
その反面、取得できれば社内だけでなく社会的にも「構造設計のプロフェッショナル」と認知され、仕事の幅が広がるでしょう。
ステップアップのための転職などにも当然有利になりますよね。
取得のためには半年から一年程度の時間を勉強に費やす必要があると思いますが、構造設計に携わっているのであれば、それだけの価値がある資格かと思います。
やる前からあまりハードルを上げずに、4人に1人は合格する資格と思って取り組めば、最後まで頑張れるはずです。
一級建築士を取得できた皆さんであれば構造設計一級建築士も乗り越えられるはずですので、頑張ってください。