あなたの家の塀は大丈夫?ブロック塀の維持管理、耐震性確保の難しさ。

建築
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建築士という仕事柄、私のところには災害に関する問い合わせが多く寄せられます。
近年であれば、私が暮らしている大阪では2018年に大阪府北部地震があり、その被害に関する相談を受ける機会もありました。

大阪府北部地震は、最大震度6弱で多くの建物に損傷などの被害を及ぼしましたが、もっとも印象に残っているのが高槻市で起きたコンクリートブロック塀の転倒による痛ましい被害です。
この被害を受け、翌2019年には(一財)日本建築防災協会から「既存ブロック塀等の耐震診断基準・耐震改修設計指針・同解説」という書籍が発行されるなど、ブロック塀に対する危険性が改めて認知されることとなりました。

この書籍については私も目を通しましたが、以前からの私自身の考えは「子供の命を奪う危険性のある高さのブロック塀は撤去し、今後の設置も取りやめたほうがよい」というものです。

本稿ではこれまで一級建築士として多くの建物や建造物の調査、構造計算などを行ってきた私がそのように考える要因を紹介いたします。

本稿を通して、ブロック塀の問題点を把握するとともに、その危険性について理解を深めていただければと思います。

□本稿の対象読者
・ブロック塀の問題点、危険性について知りたい方
・自身が所有、管理する敷地にブロック塀をお持ちで不安に感じられている方
・自治体等にお勤めでブロック塀の取り扱いに迷われている方
 

大阪府北部地震の被害について

ブロック塀に関しては、1978年の宮城県沖地震で18名もの死者を出しており、かねてからその危険性が指摘されてきました。
しかし、プライバシーの保護や敷地内への侵入防止などのメリットもあり、未だに多くの場所で使用されています。
一部のサイトでは「メンテナンスが楽」と謳っているものも見受けられますが、この点に関しては個人的に大きな疑問を持っています。

大阪府北部地震の被害を受け、高槻市では事故調査委員会を立ち上げ、事故原因の検証などが行われました。
その結果、以下のような問題点が発覚したのです。(詳細は高槻市HP参照)

  1. このブロック塀は、高さ1.9mの鉄筋コンクリート造擁壁の上に設置されており、最高高さは3.5mにもなっていました
  2. ブロック塀はブロックとブロックの間に鉄筋を設置し、その部分をモルタル(セメントと水と砂を混ぜたもの)で固めますが、位置合わせのために鉄筋が折り曲げられている箇所が複数ありました
  3. 鉄筋の定着(固定)が不十分で抜け出してしまっている箇所が複数ありました
  4. 鉄筋が腐食し、錆びて細っている箇所が複数ありました

私がもっとも気になったのは4番の「鉄筋の腐食」です。
このコンクリートブロック塀には直径13mmの鉄筋が使用されていましたが、もっとも顕著な箇所では直径が5mmまで細っていたと報告されています。

コンクリートブロック塀の維持管理の難しさ

ブロック塀は、基本的に屋外に設置され、長年にわたり温度変化や風雨に晒されることになります。
また、時には地震を受けることもあります。
そのような環境条件から、ブロックとブロックの間に充填したモルタルにはひび割れが入り、水の通り道となってしまう可能性が高いです。

建築で用いられる鉄筋は、鉄筋コンクリートに代表されるように、周りをコンクリートやモルタルで覆われ、水や空気から遮断されることで、腐食することを防いでいます。
しかしながら、ブロック塀のように屋外に晒され、ひび割れが入る可能性があるとなると話は別です。
ひび割れが入ると屋外では当然水が浸入します。
加えて、鉄筋は雨や直射日光による乾湿の繰り返しにより腐食の進行は促進されます。

そのような状況を考えると、ブロック塀を適切に維持管理し、長年にわたり健全な状態で使い続けるというのは、非常に困難ではないかと考えられます。

今後の社会の取り組み

大阪府北部地震の被害を受けての事故調査委員会の報告や、(一財)日本建築防災協会から発行された「既存ブロック塀等の耐震診断基準・耐震改修設計指針・同解説」を受け、国や自治体はブロック塀の対策に乗り出しています。

国土交通省は、ブロック塀の安全対策に関する方向性を定めるとともに、条件に該当するブロック塀に関しては、耐震性能確認(耐震診断)を義務付ける動きを見せています。(国交相HP参照)

またこれを受け、東京都などでは、撤去や建て替えに対する助成も設けられています。(東京都HP参照)
気になる方は、ご自身がお住いの都道府県や市町村のHPでブロック塀と調べていただければ、どのような取り組みがされているかがわかるはずです。

ちなみに、既存のブロック塀を補強して使い続けるという方法もありますが、個人的にはおすすめしません。
現状の問題点を把握するための調査や、問題点を全て改善するための補強にはかなりの労力と費用がかかることが予想されますし、この補強であれば絶対に大丈夫という方法は、維持管理のことなども考えると技術者としては提案しづらいです。

ご自身の家のブロック塀に費用をかけて補修や補強を行い、これからも使い続けるという選択をするのであれば、撤去し、安全性の高い塀にやりかえるのにお金を使ってほしいなと思います。

ブロック塀を所有する方へ

最後まで読んでいただきありがとうございます。

もし読者の皆さんの中で、ご自身が所有、管理する敷地に高いブロック塀をお持ちの方がおられましたら、今後の管理をご検討いただければと思います。
万が一の場合、誰かの命を奪う危険性があることを認識しておくべきです。
ご不安な方がおられましたら、お住いの自治体などに相談いただくことをおすすめします。
また、屋外で地震に遭遇したとき、特に小さなお子さんをお連れの方は、ブロック塀には近寄らず、できるだけ建設物から離れるほうがよいでしょう。

自治体にお勤めで複数のブロック塀の取り壊しに携わる機会がある方がおられれば、取り壊し時の鉄筋の腐食の状況などのデータを取り、今後の重要な知見として情報収集していただきたいとも思います。

最後になりましたが、今回取り上げました大阪府北部地震で被害にあわれた方々やそのご遺族には、心からお悔やみ申し上げます。





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