マンションの床が傾いた?家が傾く原因とそんな住宅を購入しないための対策。

建築
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もしご自身が住宅を買う、建てるとなったら「おしゃれな家にしたい!」と思うのと同じか、もしくはそれ以上に「欠陥住宅はイヤだ!」とお考えになるのではないでしょうか。

私は一級建築士として構造設計という仕事をしている関係上、建物の不備に関する情報を目にする機会があります。
その中でも、2015年に報道された「横浜の傾斜マンション」の案件は、傾きが確認されていない棟を含めた全4棟が建て替えとの結論に至り、かなり大きな話題となりました。

この報道を受けて「うちの家が同じようなことになったらどうしよう」とか「自分が買ったマンションがこんなことになったら最悪だ」と考えられた方も多いのではないでしょうか。

ロア
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横浜のマンションは隣の住棟との差で傾きが発覚しましたが、生活に支障のあるほどの傾きではなかったようです。ですが住民としては当然不安と不信を抱くものですね。

本稿では、これまで多くの構造設計に携わってきた筆者が、建物に起こりうる傾きの原因と対策について紹介いたします。

これから住宅の購入を考えられている方や、分譲住宅にお住いの方は、今後のお役に立てていただければ幸いです。

□本稿の対象読者
・これから住宅の購入をお考えの方
・すでにご自身の住宅をお持ちの方
・その中で床や建物の傾きについての知識を持って販売者と話を進めたい方

考えられる原因は大きく3つ

建物で「この床、傾いてる?」と思われた際に気にすべきは「建物全体が傾いている」か、「その床だけが傾いている」のいずれであるか

建物全体が傾いている場合、その原因はほぼ間違いなく「地盤」および建物を地盤に接地する「基礎」の部分にあります。
構造設計では、建物の重量を計算し、その重量を基礎で確実に地盤に伝える必要があります。
しかし、万が一にも基礎が堅固な地盤に定着されていない場合、建物に傾斜が生じる可能性があります。
前述の横浜のマンションでは、基礎として設ける杭が地中の堅固な地盤に到達していなかったことが傾斜の原因の一つであることがわかっています。

次に、建物全体が傾いているわけではなく「その床だけが傾いている」場合は、建物内に不備があることになります。
この時に考えられるのは、「床の設計や施工(工事)の不備」、もしくは「シロアリなどの被害による木材の劣化」です。

以上をまとめると、床の傾きを感じた際に考えられる主な理由には、以下の3つが挙げられます。

  • 地盤や基礎の設計、施工(工事)に不備があり、建物全体が傾いている
  • 床の設計、施工に不備があり、その床だけが傾いている
  • 木造住宅でシロアリ被害などにより木材が劣化し、その床だけが傾いている

ここからは上記の原因について、さらに詳しく解説していきます。

原因1.地盤と基礎

建物を建てる際、地盤の調査が行われ、調査結果をもとに設計者は、どのような基礎が必要かを設計していきます。
浅い部分の地盤はどのようなものか、どのくらいの深さに堅固な地盤があるか、建物の重量はどの程度か、といった情報を整理し、コストなども考えながら設計を行います。

表層の浅い部分から堅固な地盤となっている場合は、あまり悩むこともありません。
堅固な地盤が地中深くにあっても、一様な深さでその地盤が確認できる場合も、設計、施工の難易度としてはあまり高くありません。

一方で、谷筋を土でフラットにならした、いわゆる盛土された敷地では、堅固な地盤が斜めに存在する場合があります。
この場合は、基礎ごとに杭の長さを変えるなどの対応が必要となり、施工の管理の面で慎重な対応が必要となります。

建物が建った時点では床がまっすぐでも、地盤が建物の重量により徐々に圧縮(圧密)され、少しずつ傾いていくこともあります(横浜の件も含め、傾きは微小なため建物が転倒するほどではありません)。

地盤や基礎が原因となるケースは、戸建て住宅よりも建物重量の大きいマンションなどの集合住宅が主となります。
そして地盤や基礎に不備があるときに一番難儀なのが「地盤の中だから状況を見ることができない」ということ。
この点に関しては施工会社を信用するしかありませんし、個人でできる対策は正直ありません。
そのため、心配だという方は住宅を購入する前に、販売会社に建物に傾斜が起こった場合の補償などについて相談しておくのがよいでしょう。

ロア
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事前に補償の話ができれば万が一のときにも安心ですね。

原因2.建物内の工事の不備

建物は柱、はり、壁、屋根や床などで構成されますが、家具などの日用品が置かれるのは床です。
床は、はりや木造であれば大引、根太といった部材で支持されるのですが、これらの部材の施工(工事)にもし不備があれば床の傾きにつながります。
入居して間もなく、床の傾斜が感じられるようであれば、この点が疑われるでしょう。

対策としては、内見のときに床の傾斜の測定を販売側にお願いすることで不安が解消されるでしょう。
水準器などの水平を測る器具があるため、簡単に測定することができます。

今だとスマホでも角度を測ることができますが、スマホでの測定だと許容範囲内の傾斜でも0°とは出ない可能性があるので、過剰に気になってしまうかもしれません。
新築住宅での床の傾斜の許容範囲は長さ1mに対して高さの差が3mm、角度換算で0.17°とされており、実際に全くの0°ではないこともあります。

ロア
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あまり過敏になってあれもこれも不備だと指摘するのは販売者との信頼性が失われるのでNGですよ!

原因3.シロアリなどによる木材の劣化

木造住宅であれば、シロアリなどが原因で木材が腐朽し、床の傾きにつながる可能性もあります。
木造住宅にお住いで、「入居当初は全く気にならなかったけど数年たってからこの部屋の床の傾きが気になりだした」といった場合は、木材の腐朽による傾斜が疑われます。

対策としては定期的なメンテナンスが重要です。
気になる場合は、住宅の販売者に相談するか、点検を請け負ってくれる業者を探し、シロアリの疑いがないかを点検してもらいましょう。

ネット検索だと、最近は法外な金額を請求される違法業者にあたる危険性もあるので、まずは住宅の販売者におおよそのメンテナンス費を聞き、相場を把握した上で業者を決定するのがいいかもしれません。

メンテナンスを行えば、シロアリ以外にも浸水や木材の乾湿の繰り返しなど、腐朽の要因が見つかるかもしれません。
また、建設時にシロアリ対策の薬液が散布されているはずですが、永久的に効果を維持するものではないため、5年単位、10年単位での再散布を検討されるのもよいでしょう。

ロア
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薬剤散布はお金がかかりますが、木材が腐朽した場合の補修費を考えるとやむなしでしょう。

おわりに

住宅の購入は、多くの人にとって人生でもっとも大きな買い物となるはずです。
そんな人生の一大イベントに欠陥のあるものを購入しては目も当てられません。

今回紹介した原因2、原因3であれば、建物内の補修で床の傾きを解消できる可能性が高いですが、原因1であれば横浜のマンションのケースのように建て替えなどの抜本的な対応が必要となります。

わずかでも今回紹介したような知識をもっておくことで、住宅購入時の不安を解消できれば幸いです。
また、少しでも不安に感じた場合は、早めに住宅の販売会社などに相談することをおすすめします。

なお最後に、建物の傾斜のような不備が起こる建物は本当にごく一握りであり、多くの建物は健全に建てられていることを申し添えておきます。





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