はじめに
こんにちは、ロア(@roa_garnet)です。
耐震診断では、昭和56年(1981年)以前の建築物が対象となり、現在の施工技術と比べて、当然施工の精度は低くなります。
鉄筋コンクリート造建築物では、コンクリートが設計基準強度を満足していないケースも多く、その中でもコンクリートの診断採用強度が13.5N/mm2未満のものが低強度コンクリートと呼ばれています。
現在ほどコンクリートの混和剤が充実しておらず、コンクリートの打設性確保のために加水したことなどが原因の一つではないかと考えられます。
13.5N/mm2というのは、旧耐震の建築物の設計基準強度として多い18N/mm2の3/4にあたります。
設計基準強度に対して75%も強度が出ていないため、健全ではないと考えられているのでしょう。
本稿では、これまで低強度コンクリートの耐震診断や耐震補強に複数携わってきた筆者が、低強度コンクリートの建築物を取り扱う際の注意点などをまとめています。
構造設計者にとっては、本稿に目を通していただくことで、耐震診断の評価機関(判定機関)や建築主との調整がよりスムーズに進めていただけるかと思います。
・低強度コンクリートの耐震診断に対する考え方を知りたい方
耐震診断での低強度コンクリートの定義と扱い
鉄筋コンクリート造の耐震診断に広く用いられている(一財)日本建築防災協会より出版されている「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・改修設計指針・同解説」では診断採用強度が13.5N/mm2以上の建築物が対象とされています。
一般的には診断採用強度が13.5N/mm2を下回るコンクリートを低強度コンクリートと読んでいます。
また、診断採用強度が13.5N/mm2を下回り、9N/mm2以上のコンクリートであれば、(一社)建築研究振興協会より出版されている「既存建築物の耐震診断・耐震補強設計マニュアル」に記載されている方法を用いて、構造部材のせん断耐力を低減して評価する方法が一般的です。
評価、判定を受ける場合は、追加調査も考慮しておく
低強度コンクリート建築物の耐震診断に関し、評価機関(判定機関)に内容の妥当性を審査してもらう場合は、コンクリートコアをどの位置から採取したか、コンクリートコアがどのような状態であったかを説明できるよう、準備しておく方が良いでしょう。
打設性を確認できるよう、どの程度の高さから採取したかも説明できるのが理想的です。
コンクリートコアの採取位置や、圧縮強度のばらつきの程度によっては、追加でのコンクリートコアの採取および圧縮強度試験を評価機関から要請される場合も考えられます。
対象建築物が低強度コンクリートとわかった段階で、建築主には追加調査の可能性も説明しておいたほうが、後々の対応がやりやすくなるはずです。
また、圧縮強度が当初設計の75%以下になることなどを考慮すると、柱の長期軸力がコンクリートの長期許容応力度に対して、どの程度の状態にあるかを確認しておくとともに、梁やスラブに現状でたわみなどが生じていないかも調査しておくべきでしょう。
粗悪なコンクリートでないか
低強度コンクリートの耐震診断の対応が記載されている(一社)建築研究振興協会より出版されている「既存建築物の耐震診断・耐震補強設計マニュアル」においても、適用範囲の最低値は9N/mm2となっています。
それを下回ると、引用できる文献がなく、耐震診断を行ったとしても参考程度の扱いにせざるを得ないと考えられます。
注意が必要なのは、低強度コンクリートの実験のために用いられている低強度コンクリートと、現場で確認された低強度コンクリートは、全くの別物だということです。
実験のために製作された低強度コンクリートの試験体は、実験のためにしっかりと管理された中で作られた良質な低強度コンクリートです。
一方、現場で確認された低強度コンクリートは、施工性の悪さが起因しており、もともと圧縮強度の高いコンクリートを作るはずだったのに圧縮強度が出なかった粗悪なコンクリートです。
一方で、建設年が古く、設計基準強度自体が13.5N/mm2というケースもあります。
この場合、設計基準強度13.5N/mm2に対して、診断採用強度が13.3N/mm2とかであれば、設計基準強度に相当する程度の強度は発揮されており、一概に粗悪なコンクリートとは言えないでしょう。
設計基準強度を確認した上で、診断採用強度が10N/mm2前後のコンクリートでは、粗悪なコンクリートでないかを慎重に判断し、建築物の継続使用の可否を判断すべきでしょう。
耐震補強を要望される場合は要注意
低強度コンクリートの建築物に対して、建築主が継続使用を希望し、耐震補強したいと要望される場合は、より慎重な対応が必要です。
個人的な印象としては、診断採用強度が10N/mm2を下回ると、建築物の使い勝手を維持した耐震補強は不可能と感じています。
長期軸力がコンクリートの長期許容応力度を上回る柱も多くなり、大規模な改修が必要となる可能性が高いです。
また、特殊工法を用いた耐震補強工法の多くは、コンクリートの圧縮強度の適用範囲が設けられており、低強度コンクリートに対応しないものが一般的です。
そのため、特殊工法を用いた耐震補強は採用できず、在来工法の補強に限定されることとなります。
建築主に対しては早めに建築物の現状を伝え、耐震補強の可能性をお話ししておくとともに、必要に応じて評価機関(判定機関)に相談するのも良いでしょう。
おわりに
私自身、低強度コンクリートの耐震診断を過去に複数経験しましたが、様々なことを念頭に置きながら検討を進める必要があるため、かなり頭を悩ませました。
建築主が耐震補強を要望される場合も、「無理なものは無理」と早い段階と言ってしまうべきでしょう。
変に期待をもたせてしまうと、後々より厄介な対応が求められることが予想されます。
最後になりましたが、本稿を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この記事が低強度コンクリートの建築物の耐震診断、耐震補強に悩まれている方にとっての参考になれば幸いです。